院長ブログ
線維筋痛症:理解を 交通事故後発症も 生活一変、補償なく /北海道
◇因果関係認定、裁判の壁厚く
通常の検査では異常がないのに全身が激しく痛む「線維筋痛症(せんいきんつうしょう)」。交通事故で発症することもあるとされるが、裁判では因果関係が 認められず十分な補償を受けられないケースも多い。患者団体は「いつ誰がなってもおかしくない病気。患者の苦しみを知ってほしい」と社会の理解を求めてい る。【金子淳】
札幌市西区の男性(53)は02年1月、交通事故で全治10日の頸椎(けいつい)ねんざと診断された。ところが通院しても痛みは一向に収まらない。約半 年後には、長時間同じ姿勢でいると手足に強烈な痛みを感じるようになり、仕事を休むことが増えた。「鎮痛剤も効かず、どうしていいか分からなかった」。不 安だけが広がった。
線維筋痛症と診断されたのは、事故から2年以上たった04年6月。痛みを和らげる薬で症状は改善したが、毎日のように注射や点滴を受けなくてはならず、医療費は月6万円に上る。
加害者に賠償を求め07年に札幌地裁に提訴したが、判決は発症を否定。控訴審でも「発症しているとしても、事故との因果関係を認めるのは困難」とされ敗訴が確定した。「事故に遭って生活が変わってしまった。裁判所はどうして理解してくれないのか」と男性は憤る。
患者らが02年に設立した「線維筋痛症友の会」(横浜市、電話045・845・0597)が今年8月にまとめた患者の生活実態調査によると、回答した会員約700人のうち約8割が仕事や通学に支障をきたしており、経済的不安がない人はわずか16%だった。
自由記入欄では「バスの振動で強い痛みがきて、乗り換えができない」「自殺がいつも頭をかすめる」など窮状を訴える声が寄せられ、交通事故で発症した患者からは「加害者と調停中で、詳しい弁護士を紹介してほしい」と支援の要請もあった。
事故との関連を認めたケースは、追突事故の被害者の男性が加害者らに損害賠償を求めた訴訟の山口地裁判決(06年10月)がある。だが、この判決も「原 因を科学的に特定するのは現時点では不可能。心理的要素が影響した可能性も高い」と指摘し、発症原因に占める事故の影響を25%と限定した。
同会の橋本裕子理事長は「事故前後の症状の変化を見れば因果関係は分かるはず。検査で分からないからといって否定するのはおかしい」と訴えている。
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■ことば
◇線維筋痛症
原因不明の全身疾患で、激しい痛みに襲われ、重症化すると自力生活が困難になる。睡眠障害や耳鳴り、微熱などを伴うこともある。推定患者数は全国で約 200万人で、約8割を女性が占める。交通事故などの外傷がきっかけになることもあり、事故から数カ月以上たって発症するケースも多いとされる。血液や CT(コンピューター断層撮影装置)などの検査でも異常が見つからないため、心因的な症状と誤解されることもある。